いざというときに役立たず


※R18だと思われます。
 
 ゴクリと唾を飲む。
 これを口に入れるのかと思えば、初めてではないが緊張する。もう一度、大きく息を吸えば、独特の生臭さが鼻をついた。
 いっそ息を止めて、そのまま先端を銜え込む。
「う…ん。」
 途端、響也の頭に添えられていた成歩堂の手が振るえて、息を詰める音が、引き結んだ唇から漏れるのが聞こえた。
 馴れた行為という程に回数を重ねた訳では無かったが、ここまで体積を増した状態で咥内へ入れたのは初めてで、ともすると吐き気が沸き上がり、息を吸うのもままならない。響也は無理だと判断して一端身体を引いた。
 グシャグシャになっている髪が、汗ばんでいる頬や額に張りついて少し鬱陶しい。首を傾け、片手で抑えようとした手に成歩堂のそれが重なった。
「…響也く…ん。」
 名を呼ばれて頭を上げれば、熱を帯び蕩けそうな目をした男の顔があった。いつも通り淫靡に微笑む彼に、いつも通りの余裕がないのを感じて、響也は口元を緩ませる。意地の表情になったのかもしれないと思った響也に、しかし、成歩堂はトロリと笑う。
 薄く開いた目が、響也を眺めおろした。
 響也の頬に張りついた髪を、無骨な手付きで集めて髪を纏める。作業性の効率化かと思えば、奉仕している響也の顔が見たかったらしい。熱い吐息を漏らして、言葉を紡ぐ。

「色っぽいね、凄いよ。」
「……アンタの方が凄い顔してるけどね。」

 軽口を返し、先だけを頬ばるようにして、成歩堂に舌先を絡める。頬張るという表現より、しゃぶるといった様子だろう。
 暫く続けていると、成歩堂の腰が浮いてくる。先だけの刺激ではもう物足りなくなってきたのだ。それでも知らないふりをして、舌が擦り上げる度に脈うつモノを執拗に舐め続けた。

「ちょ…そこばっかりは…響…。」

 抗議の声を喉に留めさせるように吸い上げれば、頭を抑えていた手に力が籠もる。ぎゅっと髪を掴み、股間に押し付けられた。予期していなかった手の動きは、咽喉の奥まで猛った男を押し込んだ。
「んん……っ!」
 苦しさにうめき身体を引こうとした響也と、 ぬめる舌や柔らかな頬肉から享受出来る快楽を逃したくない成歩堂の手が強く頭を押し戻そうとした事で、響也の歯がガリッと先端に与えた刺激に、ゾクリと総毛立ち成歩堂は思わず腰を上げた。
 快感が渦巻く腰を制御出来ず、ずれた身体は椅子から床へ成歩堂を叩き落とす。
 頭を抑えられていたせいで、響也も床へと引き落とされた。幸い、胡座をかくような状態で座り込んだ成歩堂の足に落下して、床に顔面を打ち付ける醜態は晒さずにすむ。
「ちょ…!」
 危ないじゃないかと、声を上げるつもりだった響也の喉が一瞬引きつった。
  つぷり と、指が潜り込む。昨夜の余韻もあり、解きほぐされていたそこは、あっさりと指をのみこんでいく。
「ひぁ…ッ?!ぁ…ッ」
「駄目だ、よ。ほら、続け…て。」
 空いている手で頭を抑えられれば、深く飲み込む以外ない。それでも、髪を絡ませる手付きは柔らかで、響也抗議の視線を送ったものののろのろと愛撫を再開する。
 口唇で抜き差しをすれば、成歩堂の指先もそれに合わせて内部を掻き回してきた。

「ん…、んん……っ」

 喉を詰める苦しさと、とろけさせる指の動きがもたらす快感に理性での抑制は利かなくなる。沸き上がる吐精感にも促され、くちゅくちゅと涎液にまみれた音を立てながら、獣じみた行為に没頭していった。
 そうして、唇から溢れる唾液を吸い上げた瞬間、 今までになく成歩堂が大きく脈打つ。ビクリと震えた彼の爪先が掠めた場所に、己の腰もまた震えたのがわかった。

「響也、く、………出る…っ!」

 掠れた成歩堂の声を聞くまでもなく、褐色の肌には白濁した欲望がしたたり、己が吐き出したモノも響也自身を汚していた。

 


「ホント、最低だね、アンタ」
 辛辣な響也の言葉に、成歩堂は苦笑した。
「入れなかったんだから勘弁してよ、ねぇ響也くん」
 椅子の上に膝を立て、顎を乗せていた響也の頬が僅かに赤らむ。それでも、(僕は怒っているんだぞ)というスタンスを崩すではなく、眉の間に皺を刻んだ。
 成歩堂はごめんごめんと口にしながら、先程洗濯機から取りだして来た自分のシャツと、響也のシャツを馴れた手付きでハンガーに掛け皺を伸ばした。
 互いの精液を勢い良く飛ばしたお陰で、とてもそのまま着ていられる状態ではなく、洗濯を余儀なくされた。
 自分も着替え、ワードローブから比較的綺麗なシャツを持って来た成歩堂は、響也がさっさと自分のパーカーを羽織っているのを見て、頬を緩める。何か文句あるのかと言わんばかりの視線すら、愛おしい。
 何をしても、可愛く思えてしまうのだから始末に負えない。

「朝ご飯用意するから、食べて行くといいよ。きっとその頃には乾いてるから。」

 王子様の機嫌が少しでも良くなるように、そう告げれば目を丸くした。
「アンタが作るの?」
「忘れたのかい? これでも一児のパパなんだよ。可愛い一人娘にはちゃんと食べさせているよ。」
 笑いながら、中身の乏しい冷蔵庫を物色する。本当に何もないのには苦笑した。
思わず、響也に向き直り頭を掻いた。
「大したものは、作れそうにないな。」
「いいよ。アンタが作るものは、家庭の味がしそうだ。」
 以外と嬉しそうに笑うので、成歩堂は一瞬瞠目する。それに気付いたのか、響也はむっとした顔に変わった。
「僕、変な事言った?」
「いや、家庭なんて、君の口から出るとは思わなかったから。」
「悪かったね。僕は17から自活してたんだから、たまにはそういうのも良いなって思うんだよ。」

 みぬきとふたつしか違わなかったのか。

 法廷に立つ、生意気な青年の歳を改めて思えば、あの時抱いた感想とは随分と違った感想が成歩堂の胸に浮かんだ。
 
「もっと、甘えていいよ?」


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